2022年1月末に我が家の愛猫はなちゃんの元気が突然無くなり、異常を感じて病院へ連れて行ってから早や1か月。長い入院生活を経て退院し、やっと落ち着いてきたのでこの怒涛の、しかし不安と心配でいっぱいだった1か月を振り返ってみます。妻と力を合わせて乗り越えた、涙あり笑いありの1か月でした。

 結局今回は3つの医療機関にお世話になりました。どの病院の先生・スタッフの方々にも親切にして頂き感謝でいっぱいです。この一連の記事を読んで、少しでも同じような病気・状態の方の助けになればと思っています。

 今回は北大での緊急手術が終わった後のお話です。経過が良ければ一度退院し、来る尿路系の手術まで我が家で英気を養う予定でした。しかし当初の予定は変更を余儀なくされ…

目次

電話が来ないよう祈った土日

 1/29(土)13時半頃。
 昨晩の緊急手術後、はなちゃんは北大動物医療センターの猫ICUにいました。容体の急変など何かあった場合にのみ電話が来ることになっていましたので、夫婦そろってこの土日は電話が来ないことを祈りながら過ごしていました。

 午前中に妻の電話が一度鳴ったようで、相当肝が冷えたようです。でもそれは北大からではなく、実家のお母さんがはなちゃん(と妻と私)を心配してかけてきてくれたようでした。私の電話が無かったかの問いかけに対する、「なかった」「大丈夫 なかった」という返答が安堵していることを色濃く表していますね。この数日間のドタバタで、食べようと思っていた食材を食べられず悪くしてしまいました。仕方のないことですが、勿体ないことをしてしまいました。

 仕事に出ていた土曜日も、休日だった日曜日も結局電話はかかってきませんでした。月曜日は妻が午前中面会に行ってくれることになっていたので、その時にはなちゃん退院してこれるのではと期待していました。

退院延期

 1/31(月)9時半頃。
 面会に行った妻から報告が来ていました。残念ながら退院は延期になってしまいました。日曜は平熱だったそうですが月曜になって体温が上がってきてしまったようです。発熱の他、腎臓も気になるところです。その腎臓の方はというと、再び水が溜まってきてしまっているとのこと。子宮摘出手術の時に、左腎に溜まった水を抜く処置もしてもらっていたのです。こちらもあまり猶予はなさそうですね…。

 もともと私が一緒に暮らしていたはなちゃん。結婚を機に妻もはなちゃんと一緒に暮らすようになって、妻は私よりもはなちゃんのことを溺愛するようになりました。退院延期になってショックを受ける妻の気持ちを思うといたたまれません。

 話題ははなちゃんの元気の無さに移ります。術後の傷の部分を過剰に舐めたりしないために服やカラーをつけることが多いようですが、はなちゃんはどちらも無い状態でした。獣医さん曰く、あまり傷跡を気にしていないようだとのこと。

 血液検査は多少正常値から逸脱した項目はあるようですが、今の状態を鑑みるとそこまで問題は無いとのこと。その点はプラス材料として前向きに捉えることにします。

 発熱の推移としては、土曜日39.1°(微熱)→日曜日(平熱)→月曜日(微熱)という感じで、高熱ではないようですが…。点滴からは抗生剤の投与は継続しているようですので、それでも熱が上がってしまうということを考えると退院できる状態では無いんですよね。

 多くの猫ちゃんを見てきた獣医さんによると、はなちゃんはあんまり入院を苦にしていない節があるようです。環境の変化を嫌う猫ちゃんですが、やはり性格は十人十色(十猫十色?)のようです。退院は早くして欲しいですが、入院を苦にしていないのはせめてもの救いですね。

 ごはんはドライタイプもウェットタイプも出してもらっているようですが、ドライタイプの方が好きなようです。歯周病予防の観点から我が家ではウェットタイプはこれまであげてきませんでしたが、今後の結石予防を考えるとウェットタイプも食べてもらわないとならないですね。

予想よりも早い手術

 2/1(火)16時頃。
 この日は電話で様子を伝えてくれる手筈になっていました。夕方になってようやく妻に連絡が来ました。北大の先生方もたくさんの患者さんを抱えているので忙しいのでしょう。さて内容はというと、はなちゃんの熱が下がらないので2/3(木)に尿管結石の手術を予定したいとのこと。

 具体的な体温は39.5°前後で、猫ちゃんの体温でいうと微熱のようですが下がらないのがネックの様です。本当なら感染が落ち着いて熱が下がってからの手術の方がはなちゃんの負担を考えると良いのでしょうが、そうも言ってられないのでしょう。

術前説明

 2/2(水)9時半頃。
 妻が面会に行ってくれました。夕方私も面会に行く予定なので、手術の詳細の説明はこの時は無かったようです。はなちゃんの熱は39.4°。やはり下がっていません。北大のスタッフの方の計らいで、猫の好きな狭い空間を段ボールで作ってくれていました。

 ご飯を食べる量が少ないようで、点滴からの栄養と足しても十分量とは言えない状態の様です。明日の手術以降、今よりもご飯を食べる量が減っては困るので腸に栄養を送るためのチューブを設置するかもしれないとのことでした。人間でいう「胃瘻」といったところでしょうか。点滴から高濃度の栄養を送ろうとすると、末梢血管が壊死してしまうとのことです。少しでもご飯を自分で食べて欲しいと、我が家のごはん皿を持っていくことにしました。

 夕方私が面会と術前説明に行くときに、聞き漏れが無いように妻と事前に擦り合わせをします。手術後にいつ退院できるかに関しては、発熱が解消されないと厳しいようで長期戦を覚悟しないといけないようです。

 18時頃。
 私は初めて北大動物医療センターを訪れました。受付時間外のため入り口横のインターホンで要件を伝え、無人の受付の前の椅子で呼び出されるのを待ちます。待合室にはまだ数組の人が各々の家族を待っていました。しばらくして呼び出しがかかり、主治医の先生と初対面です。

 30代くらいの爽やかな先生でした。それぞれの挨拶もそこそこに、はなちゃんの現状と翌日の手術の説明に移ります。現状については、

  • いろいろな先生にはなちゃんの入念なエコーを診てもらったが、やはり腎以外に怪しいところが見当たらない
  • 見落としが無いよう、全身麻酔後にCT撮影をし腎以外に原因が無いか精査する
  • 仮に腎以外に原因と思われる部位が見つかったとしても、腎は手術が必要な状態なので予定通り手術は行う
  • 今日のはなちゃんの体温は9時で39.4°、16時で39.6°。猫の発熱の定義は39.3°~なので微熱
  • エコーで見える腎臓内の泥状の液体や血液検査の結果を見てもやっぱり腎が疑わしい。犬にはよくあるが猫では稀

とのことでした。主治医の先生だけでなく、様々な先生にエコーを診てもらって見落としが無いようにしてくれていました。更に全身麻酔しなければ撮れないCTも、手術前のタイミングで撮り精査もしてくれるとのこと。
 腎臓や尿管に結石ができ、その結石に細菌が付着して感染の症状を呈すことがわんちゃんではよくあるようですが、猫ちゃんではあまり見ないのだそうです。はなちゃん犬説。

 そして明日の手術については、

  • 行うことは2つ。尿管膀胱新吻合術、腸瘻チューブの設置。腸瘻チューブは今晩よほど食欲がある場合を除いて設置予定
  • 尿管膀胱新吻合術とは、結石がたくさんある尿管の部分を切除し残っている尿管と膀胱をつなぐ手術(尿管は短くなる)
  • その際に切除しない部分の結石や汚れも可能な限りきれいにする
  • 取り出した結石は細菌検査に出す
  • 手術した尿管内の尿の通りを確保するためにステントを入れるかもしれない
  • このステントは必要なくなれば無麻酔で抜ける
  • 腸瘻チューブは抜糸のタイミング(術後約1週間)で無麻酔で除去できる
  • 感染を考慮してSUBシステムは設置しない
  • SUBシステムは人工尿管のことで、左腎と膀胱を人工の尿管で繋ぐシステム
  • 手術は今晩20時~のカンファレンスで人員配置や手術室の振り分けが決まるので、開始時間は現時点では未定。手術時間は3時間、多く見積もっても4時間
  • 手術終了後は妻に電話で報告してくれる

とのことでした。ホワイトボードに絵を描いて丁寧に説明してくださいました。猫の尿管は直径1mm以下と非常に細く、その尿管を切り開いて結石を除去し縫合するのは非常に高い技術が要求されるそうです。はなちゃんの場合は結石が多すぎて元の尿管を全て温存することができない状態のようです。従って、温存できない尿管は切除することになります。切除した後は腎臓側の尿管の切断面と膀胱側の尿管の切断面を繋いで、新たな(短い)尿管とします。こちらも、術後に尿管からの漏れが無いよう縫合するのは非常に高い技術が必要だそうです。
 ここで、SUBシステムについて触れておきます。SUBシステムとは「Subcutaneous Ureteral Bypass」システムの略で腎臓と膀胱を人工尿管で繋ぐバイパスです。ただ単純に腎臓と膀胱を人工尿管で繋ぐだけでなく、管の途中に「ポート」と呼ばれる装置があります。その装置は皮下に位置することになります。退院後はSUBの洗浄というのが必要になりますが、洗浄時に使用されるのが「ポート」という訳です。

引用元:北大動物医療センターHPより

 そして、このSUBシステムを設置するかどうかの話ですが、ポイントははなちゃんが現在最感染を起こしているということです。人間でも心臓に人工弁を設置した人が、その人工弁に細菌感染を起こすと非常に危険と言われていますよね。SUBも人工物なので、はなちゃんのケースも感染している所へ敢えて人工物を入れるのは避けましょう、ということでした。

 手術に同意し、最後にはなちゃんの面会に。猫ICUには、はなちゃん以外にも猫ちゃんがいました。はなちゃんはなぜかトイレのなかで丸まっていました。はなちゃんの入院中のストレスを少しでも軽減できればと、長年使っているクッションをケージの中に置いてみました。すると、すぐにそちらに移動しふんふん匂いを嗅いだ後、丸くなって落ち着きました。ちょっとでもストレスを軽減して、手術・入院を乗り切ってほしい思いでいっぱいです。名残惜しいですが、居座り続けてもスタッフさんの迷惑になりますのでそこそこで退散します。北大を後にし車に戻った私は、忘れないうちに妻への報告をします。

夜、電話にて

 21時少し前。
 帰宅後、家事をこなしていると滅多に鳴らない電話が鳴りました。画面には北大動物医療センターが。(はなちゃんの容体急変した…!?)と、慌てて電話に出ると、少し前に術前説明をしてくれた主治医の先生です。要件は明日の手術の術式について。はなちゃんの容体が急変したわけでは無かったのでほっとしつつ、先生の話を聞きます。私への術前説明の後、他の先生と手術のカンファレンスが行われた際にSUBの設置についての提案が出たとのことです。その内容は以下の通りでした。
 まずSUBを設置することのメリットについて

  • 大前提として、はなちゃんは結石ができやすい猫種・体質であること
  • 尿管の手術をして再建したとしても、結石は必発であること
  • そうなると結石ができて再び尿管が閉塞してしまった場合、また手術が必要となる
  • SUBの洗浄液には、結石を溶かす成分が含まれている(猫ちゃんへの負担少ない)
  • SUBを設置しておけば、定期的な洗浄で結石による尿管閉塞の予防が期待できる
  • 今回SUBを設置すれば手術回数を減らせ、はなちゃんの負担を減らせる

 次に、デメリットとその対策について

  • はなちゃんは今現在感染している(感染部位は尿路系でほぼ間違いない)
  • 感染している所に人工物を設置すると、そこが感染巣(細菌の住処)となり得る
  • 感染予防として、術後はSUBの感染プロトコルに則って一定期間毎日SUB洗浄を行う

 デメリットはまさに感染その一点なのです。当初SUBを設置しない方針だったのも感染を考慮して、でした。しかしカンファレンスで出た案を聞いてみると、SUBの設置はリスクやデメリットだけではなさそうです。通常SUBを設置した後は、毎日の洗浄は必要ないそうです。但しはなちゃんのケースでは、SUBを設置した後はSUBが感染しているものとして毎日洗浄し感染予防対策を取るというのです。
 主治医の先生がこの術式を提案された背景には、洗浄液の在庫という点もあったようです。実は1月末までSUB洗浄に用いる洗浄液がコロナ禍の影響でしばらく欠品していたというのです。しかしカンファレンス中に他の先生から洗浄液の在庫が確保できていることを聞き、実際に先生も在庫が十分量あることを確認して下さったのでした。

 正直とても悩みました。主治医の先生も「正直これは正解が無いです」と私が悩む気持ちを慮ってくださっています。感染のある場所に人工物を設置することは基本的に推奨されることではありません。それは私の分野でもそうですし、恐らくどの医療の分野でも常識でしょう。しかし、医療の世界ではその処置によって得られるメリットとデメリットを天秤にかけて、治療方針を決めるのも事実です。はなちゃんには最善の医療を受けさせてあげたい。私に与えられた選択肢は3つ。

  • 予定手術のみを実施し、SUBの設置手術は行わない
  • 予定手術に加え、同時にSUBの設置手術を行う
  • 予定手術を実施し、感染の問題が解決されたのちに改めてSUBの設置手術を行う

 再度の尿管結石が必発と聞いてしまったからには、1番目の選択肢は私の頭からは無くなっていました。したがってSUBの設置を同時に行うか、後で行うか。同時に行えば手術は一回で済みますが、感染が心配です。後でもう一度手術するなら全身麻酔が必要になり、それだけ体への負担も多くなります。かなり弱っているため、体力の回復にどれだけ時間がかかるか不透明です。結石はそんなすぐにたくさんできたり大きくなるわけではないでしょうが…。

 いつまでも悩んでいるわけにはいきません。はなちゃんも辛い中頑張っています。私は覚悟を決めました。そして、はなちゃんにとって最善の方法を模索して下さる先生を信じて、尿管の手術と同時にSUBの設置手術をする方向でお願いしました。
 この選択が本当に正しかったのかは、手術から2か月経った今でも正直分かりません。それは、手術後に待ち受けるはなちゃんのもう一つの山場を見たからかもしれませんが…。

長い一日、再び

 翌日(2/3)は子宮摘出の緊急手術から約1週間という短期間で実施される大一番。子宮摘出の時よりも更に長い一日が、私と妻、そしてはなちゃんに訪れるのでした。

はなちゃん闘病記⑥~大手術克服・熱は下がるのか!?編~に続きます!

投稿者

hanamizawa

文系学部を卒業後、歯学部再受験し現在卒後数年経った歯科医師です 患者さんにより良い医療を届けるため日々勉強中 また、勉強していく中で日常生活にもアンテナを伸ばすと知らないことが溢れていることに気づいてしまいました。 猫好き、アウトドア好き、スポーツ好き、ドライブ好き、読書好き ゆるく生きています

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