※この記事は歯科学生、新人歯科医師、卒後数年経って勉強し直している歯科医師向けです※

 一般開業医における歯科において、接着(adhesion)は避けては通れません。せっかく充填したコンポジットレジン(CR)が接着不足で数年で脱離してしまったり、二次カリエスになってしまっては術者として残念な気持ちになりますし、なにより患者さんにとって不利益になってしまいますよね。そこでCRがエナメル質、あるいは象牙質と接着するために必要な接着システムを基本に立ち返って学んでいきましょう。

※この記事は 田上順次他監修「保存修復学21 第四版」 医歯薬出版 を参考に書いています※

目次

接着システム(adhesion system)

 現在コンポジットレジンの接着は1ステップ、2ステップ、3ステップと大きく分けて3タイプに分かれます。材料開発の歴史から紐解くと、大元は3ステップでした。すなわち、エッチング→プライミング→ボンディングの3ステップです。

エッチング(etching)

 接着の1stステップはエッチングです。エッチングは酸処理剤(acid conditioner)を用いてエナメル質・象牙質共に歯質表面に凹凸を形成することを指します。酸処理剤は30~40%リン酸水溶液が多く、歯面との識別のために赤・緑・青などに着色されています。処理時間は10~30秒と、製品によって異なります。

 エッチングにより、エナメル質や象牙質表面のスミヤー層(smear層)が溶解除去されます。スミヤー層とうのは簡単に言うと「歯の削り屑や汚れカスの層」ですね。エッチングによりエナメル質の表面には、エナメル小柱の部位による耐酸性の違いからエナメル小柱構造に基づく凹凸が形成されます。象牙質は表層部が脱灰され象牙細管が開口し、有機質のコラーゲン繊維が表面に露出します。

 つまり、エッチングは表面を凹凸にする、というイメージをもつと分かりやすいですね。歯科用エッチング材(K エッチャント シリンジ)の添付文書にも”微小凹凸面の形成を行う”とあります。エッチングの元の由来は美術の凹版画からきているようですね。エッチングの意味を検索するとたくさんヒットしますが、ASOBOADOさんのHPが分かりやすく面白かったので興味のある方は是非見てみてください。

エッチングの仕組み・特徴について:印刷史のなるほど雑学04

 ちなみに、smearというのは英語で「塗りつける」というイメージのようです。医学用語ではsmearは塗抹標本を意味しています。従って、象牙細管開口部に切削片や汚れなどと水分で出来た泥上の物が「塗りつけ」られているのでsmear層と言うのだと理解すると分かりやすいです。

プライミング(priming)

 接着の2ndステップはプライミングです。プライミングは、プライマー(dentin primer)を用いて象牙質への接着性を高めるために表面改質することを言います。HEMAなど接着性レジンモノマーを水、アセトン、エタノールに溶解している他、光重合触媒も配合されています。エッチング後に歯面を乾燥後、プライマー塗布しエア乾燥を行います。

 エッチングにより象牙質表面に露出したコラーゲン繊維を乾燥すると収縮してしまいますが、プライミングにより収縮したコラーゲン繊維をある程度膨潤させると共に、ボンディングレジンの浸透を促進すると考えられています。スコッチボンド マルチパーパスは3ステップ接着システムを採用していますが、添付文書にはっきりと”エナメル質に塗布する必要はありません。塗布しても接着力が強くなることはありません”と書いてあります。プライミングのターゲットは象牙質と言うことを理解しましょう。

 primeは英語で「第一の」という意味がありますよね。プライマーは塗装業界では「下塗り」の意味もあるそうです。歯科でもプライマーはボンディング前に行う下塗りという感じで捉えると良いかもしれません。
 paintnoteさんのHPのプライマーの解説ページにはシーラーやフィラーなど歯科で聞く単語があり興味深いです。興味のある方は是非見てみてくださいね。

プライマーとは?役割やシーラー・フィラーとの違いについて解説

セルフエッチングプライマー(self etching primer)

 セルフエッチングプライマーは、エッチングとプライミングを同時に行う一液二役の材料です。これを使えばエッチング後の水洗が不要となり接着操作が簡略化されます。液に含まれる接着性レジンモノマーのカルボキシ基やリン酸基によって液が酸性(pH1~2)となるためエッチングとプライミングが兼ねられるということですね。

 セルフエッチングプライマーを用いた接着システムでは、クリアフィル メガボンドFAを愛用しています。webで公開されている技術資料によると、4000回のサーマルサイクル(thermal cycle)試験を経ても象牙質への接着強度は大きな変化が無かったことが示されています。

 歯科におけるサーマルサイクル試験は
”熱サイクル加速劣化試験の一種で、歯科では通常口腔内での温度変化を模して4℃の冷水と55℃~60℃の温水中に資料を30~120秒ずつ交互に多数回浸漬する。機械的性質や表面性状等の変化、あるいは成形修復材の辺縁封鎖性を調べるために行う”(引用元:一般社団法人日本歯科理工学会編 「歯科理工学教育用語集 第3版」 医歯薬出版 web版
というものです。メガボンドは過酷な口腔内環境でも耐えられる性能を誇っているということですね。

ボンディング(bonding)

 接着の3rdステップはボンディングです。ボンディングレジン(bonding resin)にはBis-GMA、HEMA、TEGDMAなどのベースレジンにリン酸エステル系またはカルボン酸系の接着性レジンモノマー、光重合触媒が配合されています。

 ボンディングは、ボンディングレジン(bonding resin)を用いてエナメル質表面にエナメル・レジンタグ(enamel resin tag)を、象牙質表面に樹脂含浸層(hybrid layer)を形成することによって接着強さを確保することを言います。

 bondは英語で結合、縛る、絆などの意味があるように「くっつく」イメージですよね。レジンと歯質をくっつける役割をするのがボンディングですね。

エナメル質との接着(adhesion to enamel)

 エッチングによりエナメル質表面では3つの事が起きます。1つはスミヤー層の溶解除去と表面の清浄化、もう1つはエナメル小柱構造に基づく凹凸の形成(=表面積の増加)、最後に歯面の極性化とぬれ性の向上です。

 エナメル小柱は、エナメル小柱境界部が脱灰されやすいという特性があります。またエナメル小柱の部位により耐酸性が異なるという特性もあり、これにより凹凸が形成されるのですね。エッチングされたエナメル小柱表面にはアパタイト結晶に基づく微細な凹凸も形成されるため、エナメル質の表面積は著しく増大します。

 エナメル質の表面に形成された微細な凹凸に隙間なくボンディングレジンが浸透・硬化することでエナメル・レジンタグ(下図左)が形成されます。このエナメル・レジンタグが嵌合効力を発揮することで強力な接着が実現します。

引用元:田上順次他監修 「保存修復学21 第4版」 医歯薬出版

 歯面の極性化とは、化学の知識を用いると歯面が僅かに帯電している状態と言えます。接着性レジンモノマーには親水性基が含まれますので、こちらも電気的に偏りが生じています。ぬれ性は液体の表面張力と固体の表面張力の相互作用によって決まり、一般的に液体よりも固体の表面張力が大きいとぬれ性は高いと言われています。よって、歯面を極性化することによってぬれ性を高めているのですね。
 この辺りは少し難しいので、ざっくり「液体が歯面になじみやすくなる」と理解してもらえれば良いです。

象牙質との接着(adhesion to dentin)

 象牙質との接着は、樹脂含浸層の形成がキーとなります。

3ステップ

 象牙質へのエッチングによりスミヤー層やスミヤープラグ(象牙歯冠を封鎖していた脂質の切削片等)の除去と象牙質表面および象牙細管開口部の脱灰が起きます。また、脱灰により無機成分が除去され有機成分であるコラーゲン繊維が露出します。

 このコラーゲン層にプライマーを作用させることで、樹脂含浸層が形成されます。すなわち、樹脂(レジン)がコラーゲン繊維をみながら脱灰象牙質に透し硬化することで機械的保持力が生じるを作ると言われています。開口した象牙細管内にレジンが浸透して硬化したレジンタグも機械的保持力が生じると考えられています。

引用元:田上順次他監修 「保存修復学21 第4版」 医歯薬出版

2ステップ

 セルフエッチングプライマーに含まれる酸性モノマー(MDP)がスミヤー層を溶解し、厚さ1µm前後の薄い樹脂含浸層を形成します。これは、リン酸エッチングに比べて脱灰量が少ないことに由来します。

引用元:田上順次他監修 「保存修復学21 第4版」 医歯薬出版

1ステップ

 2ステップに用いるセルフエッチングプライマーにボンディングの機能をもたせた、オールインワンタイプのシステムも現在は数多く開発されています。2ステップよりも更に手順が短縮され、操作性や簡便性が向上しました。スミヤー層の溶解は部分的と言われ、形成される樹脂含浸層の厚みは1µm以下とされています。

引用元:田上順次他監修 「保存修復学21 第4版」 医歯薬出版

まとめ

 接着システムは以上のようにエッチング・プライミング・ボンディングの3要素から成っています。1~3ステップの、どのシステムを採用するにしても処理した歯面が、処理後に汚染されないことが重要ですね。もし汚染されたら、面倒でも歯面処理をやり直すことをおススメします。歯面の汚染を防ぐにはラバーダムが必要となりますが、ラバーダムについてはまた後日お伝えします。
 それでは、良い歯科人生を。

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投稿者

hanamizawa

文系学部を卒業後、歯学部再受験し現在卒後数年経った歯科医師です 患者さんにより良い医療を届けるため日々勉強中 また、勉強していく中で日常生活にもアンテナを伸ばすと知らないことが溢れていることに気づいてしまいました。 猫好き、アウトドア好き、スポーツ好き、ドライブ好き、読書好き ゆるく生きています

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