こんにちは、歯科医師のハナミザワです。皆さん、レントゲン写真って撮影された経験ありますよね?医療の分野では検査の一つとしてレントゲン写真撮影があります。特に歯科では重要な検査です。歯医者さんに行ったことのある人の多くはレントゲン写真撮影を受けたことがあるでしょう。
患者さんの中にはレントゲン写真撮影について、被ばくの心配をされる方がいます。確かにレントゲン写真を撮影する際には放射線の一種であるX線を体に照射するので、被ばくはします。今回は歯科のレントゲン写真の重要性とレントゲン写真撮影における被ばくについて簡単にまとめてみました。
この記事で分かること
- 歯科でレントゲン写真を撮影する理由
- レントゲン写真撮影におけるリスクについての考え方
- 身の回りにある放射線について
目次
レントゲン写真(X線写真)はなぜ必要か?
歯科診療において、レントゲン写真は必須と言っても過言ではありません。
肉眼でお口の中を見る視診では
- 歯冠(歯肉より上の、お口の中に見えている所謂「歯」の部分)
- 歯根の一部(歯の根の部分で、歯肉が下がると見えてきます)
- 歯肉
- 舌や頬粘膜などの歯肉以外の軟組織
くらいしか把握することができません。
レントゲン写真で分かること
ではレントゲン写真があるとどんなことが分かるかというと…
- 齲蝕の有無
- 齲蝕の広がり
- 歯髄の状態
- 根尖病変の有無
- 歯槽骨の状態
- 歯根の形態
- ・・・etc
など、挙げればキリがありません。虫歯の治療や歯周病の治療をはじめ歯科治療では基本的にレントゲン写真は無くてはならない資料なのです。
レントゲン写真が無かったら?
レントゲン写真が手元にない場合、歯科診療の質は著しく低下すると考えて良いでしょう。レントゲン写真がないとどんな困ったことがあるかを考えて見ると…
- 虫歯の広がりが分からない
- 生活歯なのか失活歯なのかが分からない(生活歯:神経のある歯、失活歯:神経を取っている歯)
- 患歯(痛みなどの原因の歯)の特定がしにくい
- 歯周病の進行具合が分かりにくい
- 抜歯の際に偶発症のリスクが増す
- ・・・etc
など、こちらも挙げればキリがありません。レントゲン写真が無いということは、知らない土地に地図無しで放り出されるのと同じなのです。裏を返せば、レントゲン写真があれば安全に必要最小限の侵襲で治療できる確率が上がるという事です。
レントゲン写真を撮る意義
歯科におけるレントゲン写真の有用性は皆さんお分かりいただけたかと思います。
少し前の資料ですが「2004年に歯科X線検査の放射線防護に関するヨーロッパのガイドライン」でもその冒頭に
X線写真は次の理由で歯科医師にとって必須のものである。
歯科X線検査の放射線防護に関するヨーロッパのガイドライン(日本語訳)
・ 診断
・ 治療計画
・ 治療経過と病変の進展の監視
と記述されています。
患者さんに適切な治療と治療後の適切なメインテナンスを提供するためにレントゲン写真は必要かつ有効な資料なのです。
レントゲン写真撮影におけるリスク
レントゲン写真は歯科を含む医療の分野では非常に有用なのですが、リスクもあります。先ほどご紹介した「2004年に歯科X線検査の放射線防護に関するヨーロッパのガイドライン」の続きにはこうあります。
しかし、患者の被ばくと潜在的にはスタッフの被ばくは不可避なものである。X線の照射がなければリスクは全くないと考えられるので、歯科医師によるX線の使用は適切な防護を確保する責任を伴う
歯科X線検査の放射線防護に関するヨーロッパのガイドライン(日本語訳)
そうです、レントゲン写真を撮影するという事は僅かではありますが被ばくをしているという事なのです。
レントゲン写真撮影による被ばくで健康を害する?
歯科におけるレントゲン写真は被ばく量が少ないため、数枚レントゲン写真を撮影したからといって健康被害が出ることは有りません。
だからと言ってむやみに撮って良いというわけではないですよね。私達は常にレントゲン撮影による患者さんの被ばくと、レントゲン写真から得られる情報量とを天秤にかけて必要と判断した時にレントゲン撮影をしています。
では、どの程度の被ばくで健康被害が出るのか。これには「確定的影響」と「確率的影響」という考え方があります。これらについて、歯科で撮影する頻度の高いデンタルX線写真の場合を述べます。
放射線による健康への影響については環境省の以下のページで分かり易く解説しています。
確定的影響
確定的影響とは、「一定量の放射線を受けると必ず影響が現れる」事象の事を言います。確定的影響を受ける臓器として代表的なものは毛髪、水晶体、皮膚などがあります。
デンタルX線写真を撮影する場合、しきい線量に達する放射線は照射されません。
「しきい線量」とは、照射する放射線量を0からだんだん大きくした時に、影響が出始めるボーダーラインと考えてもらえれば良いです。2007年の国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告によれば、同じ線量を多数の人が被ばくした時に全体の1%に症状が現れる線量を「しきい線量」と定義しています。
しきい線量を越えると一度にたくさんの細胞死や変性が起こり、影響の発生率は急激に上昇します。
放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 第3章3.1より引用
確率的影響
確率的影響とは、「一定量の放射線を受けても必ずしも影響が現れるわけではないが、量を多く受けるほど影響の現れる確率が高まる」事象のことを言います。確率的影響には「しきい線量」は無いと仮定されています。確率的影響を受けるものとして代表的なものが悪性腫瘍、白血病、遺伝的影響などが挙げられます。デンタルX線撮影においては照射野(X線が照射される範囲)に入る可能性がある組織として唾液腺と甲状腺が挙げられます。
被ばく量が年間100mSvを超えると発がんのリスクが有意に増加し、150mSvを超えるとがんのリスクは線量と共に直線的に増加すると言われています。
※mSvは「ミリシーベルト」と読み、放射線量の単位を表しています。
放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 第3章3.1より引用
デンタルX線撮影1回当たりの放射線量はどれだけかというと、0.001~0.0083mSvとされています。従って、1年に撮影する回数を考えるとデンタルX線写真撮影が発がんリスクとなることはまずないと考えて良いでしょう。
人工放射線と自然放射線
ところで、自然放射線という言葉を知っていますか?放射線という言葉は医療の分野以外では、第2次世界大戦の時に広島・長崎に投下された所謂「原爆」の話題や原子力発電所の事故の時などに耳にする機会が多いと思います。医療の分野も含めて、これらの放射線は人工的なものです。
一方、宇宙から降り注ぐ宇宙線(0.3mSv)や地面からうける放射線(0.33mSv)、食品(0.99mSv)や空気中のラドンという元素(0.48mSv)からも微量の放射線が発せられています。人体が受けるこれらの放射線を自然放射線と言います。
年間に受ける自然放射線の線量は世界平均が2.4mSv、日本は平均2.1mSvと言われています。自然放射線の線量には地域差があり、ブラジルのカラバリ地方では年間平均10mSvと日本の凡そ5倍の被ばく量になります。
次の図に様々な人口放射線と自然放射線の線量が分かり易くまとまっています。歯科で用いるレントゲン写真は「歯科用CBCT」「パノラマX線写真撮影」「デンタルX線写真撮影」が図中にありますがどれも放射線量は非常に低いことが分かります。
斎田寛之編著「臨床に活かす!デンタルエックス線写真 撮る・読む・診るを極める」クインテッセンス出版株式会社より引用
歯科を含む医療従事者はレントゲン写真撮影をする時、上述の事を踏まえて必要に応じてレントゲン写真を撮影しているのです。
まとめ
歯科におけるレントゲン写真の重要性についてご理解いただけたでしょうか?今回の記事をまとめると
- 歯科ではレントゲン写真が無いと困る
- 歯科におけるレントゲン写真撮影での被ばく量はわずか
- 歯科のレントゲン写真撮影で健康を害することはほぼない
- 歯科医師は必要に応じてレントゲン写真を撮影している
となります。レントゲン写真へのネガティブなイメージが少しでも払拭されればと思います。
ここまで読んで下さりありがとうございます☆
何歳になっても自分の歯でご飯を美味しく食べましょう🦷
健康はお口から。行こうよ歯科検診!
この本はレントゲンに関する基礎的な知識から実用的な知識まで分かり易く記述されています。
レントゲンが苦手な若手歯科医師や歯科医療従事者の方にお勧めです!
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